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2011年度
入試速報
京都大学
入試問題の分析と対策

前期理系化学

■概要

試験時間:1科目の場合90分(教育学部の理系のみ),2科目の場合180分 大問数:4題

■京都大学の化学(前期理系)で求められる力

○長いリード文から,設問を解くためのヒントを見つけ出す読解力と推察力が求められる。

リード文中の空所を埋める設問から始まり,その後にいくつかの設問が続くという形式が多い。一つひとつの空所補充の設問で問われているものの中には基本的なものもあるが,それが後の設問で意味をもつことが多いので,問われていることの本質をつかみ,それを論理の展開に役立てる思考力・応用力・推察力が求められる。

○与えられた情報と自身の知識とを結びつけ,解答に至る構築力が求められる。

特に有機化合物の構造決定の問題では,問題文に与えられた情報だけ,もしくは,自身の知識だけでは解けない問題が多い。ときには自身の知識を応用して,問題の条件に当てはめて整理し,あるいは問題の条件の方を整理し,自分の知識に照らし合わせ,再構築する力が求められる。

○目新しい問題には考察力と洞察力が求められる。

一見目新しく見える問題にも必ず類似の実験や反応があるので,どの実験やどの反応が応用できるのか類推・推測する力が必要である。また,テーマの斬新さに戸惑うことなく,核心部分に集中する力,焦点を当てる力が求められる。

■最近5年間の出題状況 出題分野(数字は大問番号)
科目 分野 小分野 2011 2010 2009 2008 2007
化学I 物質と人間生活 化学とその役割






物質の探究






物質の構成粒子 原子,分子,イオン



1



物質量






無機物質 単体

1




1
化合物

1

1


1


有機化合物 炭化水素

3


3

3


官能基を含む化合物

3

3,4

3,4

3

3
化学反応 反応熱




1


酸・塩基,中和


4




酸化と還元





1
化学II 物質の構造 化学結合

1


1,4

1

1
気体の法則


2

1,2



液体と固体

4

2


1,4


化学平衡 反応速度


2,3

2

2

2
化学平衡

1,2

1

2

2

2
食品と衣料の化学 食品





4
衣料






材料の化学 プラスチック




4


金属,セラミックス






生命の化学 生命体を構成する物質

4

4

4

4

4
生命を維持する化学反応





4
薬品の化学 医薬品






肥料






※例年,大問は4題で,前半の2題が理論化学(1題が化学平衡であることが非常に多い)で,後半の2題が有機化学(化学Iの有機化学が1題,化学IIの有機化学が1題)である。理論化学の問題の中に無機物質に関する知識を問う問題が含まれる場合がある。2011年度問題Iでは逆に,無機物質である鉄をテーマにして,その中で種々の理論化学の内容の理解を試していた。
※有機化学の問題は,単純に知識を問うものだけでなく,理論化学との融合問題として出題されることが多い。2011年度問題IVもこのような出題であった。

■最近5年間の出題状況 問題形式
2011 2010 2009 2008 2007
リード文の字数

4130

4290

4270

4180

3610
図表の数

4

12

8

8

4
設問 論述短文


1




論述 ~50字

2



2

2
論述 ~100字



3

5


語句記述

4

12

5(9)

3

6
記号選択

3

2

16

2

4
計算・その他

32

33

28(24)

28

31

※ほぼ毎年,長いリード文があり,論理の展開にしたがって文中の空欄を埋め,そのうえで後の設問に答えるという形式である。

■2011年度入試の特徴

○2011年度も化学平衡が出題された。

例年通り,化学平衡が出題された。2011年度は,問題IIで吸着平衡が,問題Iの後半では溶解度積が出題された。気相平衡や水溶液などの単なる化学平衡にとどまらず,物理平衡をも含めた幅広い平衡理論を扱った工夫された出題が2011年度もみられた。

○有機化学と理論化学の融合問題が2011年度も出題された。

問題IVのテーマは糖であるが,浸透圧や凝固点降下,コロイドなどの内容も含んでおり,理論化学と有機化学の融合問題であった。特に,高分子と溶液の融合問題は最近増加傾向にあり,注意が必要だ。

○難易度の高い出題が2010年度から続いている。

2010年度に引き続き,難易度の高い問題が出題された。問題IIは,問題文を理解し流れに乗るのに時間がかかり,問題IVは,問題文の意図がつかめても解法の糸口をつかむことが困難であった。

■2011年度 大問別出題分析
大問 テーマ 難易度 内容と求められた力
問題I 鉄の酸化物,鉄の単体,水酸化鉄(III)の溶解度積

標準

(a) 鉄の酸化物の結晶構造を中心に,鉄の酸化数,および酸化数の変化にともなう結晶構造の変化,酸化物の密度,酸化物の反応などが問われた。結晶構造に関する正確な知識と確実な計算力が必要である。また,原子欠損にともない平均酸化数が増加し,それによって静電気力が増大して陰陽イオンが接近することで単位格子の一辺の長さが短くなることなど,十分な思考力も必要である。
(b) 鉄と希硫酸の反応により発生した水素の体積から鉄の重量を求め,このとき生成した鉄(II)イオンが酸化剤で酸化されて鉄(III)イオンになった後,水酸化ナトリウム水溶液を加えて水酸化鉄(III)の沈殿が生成し始めるときのpHを水酸化鉄(III)の溶解度積を用いて求める問題。鉄や鉄イオンの反応に関する正確な知識と,溶解度積を用いた確実な計算力が必要である。
問題II 吸着現象の原理とシリカゲルの表面積

やや難

(a) 多孔質物質の吸着点(吸着点1個につき気体分子1個を吸着できる)の総数が算出でき,かつ気体分子1個が占める多孔質物質の表面積がわかれば,多孔質物質の表面積を見積もることができる。この論理を理解し,誘導にそって空欄を補充する問題。種々の比例関係を立式したり,グラフから立式したり,あるいは目的に応じて式を変形したりするなど,高度な思考力を背景とした十分な読解力が必要である。
(b) 2つの異なる圧力でのそれぞれの吸着量がわかれば多孔質物質の吸着点の総数を求めることができることを,具体的にシリカゲルを用いた実験に適用した問題。最終の式に代入するまでに必要な数値を正確に計算できる力が必要であるとともに,0.10gを用いた実験ではあるが1gあたりで解答を求めているように十分な注意力も必要である。
問題III 芳香族化合物の構造決定

標準

(a) C9H10の芳香族炭化水素とその誘導体の構造決定を中心にした問題。標準的な知識と応用力だけで対応できるので,その正確性がポイントとなる。
(b) 芳香族エステルの構造決定の問題。標準的な知識を構造決定に適用する力が求められる。
問題IV 多糖類

やや難

(a) ホモガラクツロナンの構造と,pH変化に伴うその部分構造の変化の問題。見慣れない題材だが,グルコースの構造を確実に理解していれば対応できる。
(b) アミロースの分子量とアミロースの加水分解の割合を求める問題。 アミロースをアミラーゼで加水分解した後のマルトース水溶液の凝固点降下度からマルトース水溶液の質量モル濃度を求め,これとアミロース水溶液の密度を用いて水100mLに溶解したアミロースの質量を求める箇所が困難を極める。十分な思考力とともに水100mLを100gとする決断力も必要である。また,透析後の外液20mL中のマルトースの物質量から,アミロースから脱離したグルコースの割合を求める計算も,最初のアミロース水溶液の体積も関わってくるため非常に複雑である。十分な注意力はもちろんのこと,高度な思考力と正確な計算力が必要である。

※「難易度」は,全問題中での相対難易度。合格者の正答率が6割程度だと京大特講編集部が推測したものを” 標準”とした。

■合格に向けての対策

○正確で確実な知識を増やそう。

知識量が豊富なほど有利であることは間違いない。しかし,知識だけを問う問題は京大ではほとんど出題されない。その本質をどの程度まで理解しているかを,応用した形,あるいは発展した形で問うてくる。したがって,重要な公式や法則は,その根拠となる理論や実験事実を十分に理解しておく必要がある。これは,論述問題にも生かされる。

○応用力を養成し,類推・推測する力を身につけよう。

例えば,C24について学習したら,必ずその反応をC36に応用するなどしてみよう。すると,マルコフニコフ則など新たな問題点が見えてくる。一つの例だけで理解すると,理解したつもりでも不完全である場合が多い。京大はそういったところを突いてくる。一つ応用が利くということはすべてに応用が利くという意味であり,その効果は決して小さくはない。そのことによって,類推する力や推測する力は確実に向上する。

○日頃から正確な計算力を身につけよう。

京大では化学平衡の問題が頻出であり,必然的に計算が複雑になる場合が多い。日頃から計算ミスをすると,それが原因であっても,その分野自体に苦手意識をもってしまう。計算は常に正確に行うようにしておこう。また,2011年度問題II問4のように0.10gで得られた実験結果から1gでの量を答えさせたりするので,十分な注意力も必要である。

○天然有機化合物の出題頻度が高い。

例年,問題IVの有機化学の問題は化学IIからの出題で定着しており,糖やタンパク質の出題頻度が高い。糖では,アミロペクチンの構造やセルロースの誘導体が多く出題され,タンパク質では,ペプチドの構造決定などが多く出題されている。これらの問題演習を十分に行ったうえで,さらに,核酸やATP,脂質など,他大学を含めて最近出題された物質に関しても,教科書の内容を徹底整理するなど対策は怠らないようにしておきたい。また,近年,高分子の問題に浸透圧などの溶液論を絡ませた問題も増加傾向にあるので,十分に問題演習をしておきたい。

○解答の際は,問題文の意図を考えよう。

問題文にはリード文がある。そこでは,その問題の出題意図が表現されている。それは,場合によっては問題のずっと後半になって初めて生かされることもある。したがって,常に問題文の意図,特に目的に留意して読んでいくことが大切である。一つひとつの設問が問題文を理解していくためのヒントになっていることもある。また逆に,問題文にしたがって一つひとつの操作や条件から数値や物質が求められても,それが設問になっていない場合もある。しかし,そんな場合でもその結果は必ず後に必要になってくる。したがって,京大の問題を解くときには,設問を見てから該当する部分を問題文から探すのではなく,問題文を丁寧に読みながら数値や物質が確定するたびにその関連の設問を探す姿勢が効果的である。『京大特講「ポイント抽出」で攻略する京大化学』などの演習により,解答に必要なポイントを抽出し,設問と結びつける訓練をすることが大切である。

○集中力を身につけよう。

上述のように,京大の問題は,一見平易に見えるリード文の中に重要なヒントが隠されている場合が多いので,細心の注意を払って読み進んでいかなければならない。そのためには十分な集中力と思考力が必要である。これは,一朝一夕には身につかないので,日頃から習慣づけておきたい。

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