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2010年度
入試速報
京都大学
入試問題の分析と対策

前期理系化学

■概要

試験時間:(2科目で)180分 大問数:4題

■京都大学の化学(前期理系)で求められる力

○長いリード文から設問を解くためのヒントを見つけ出す読解力と推察力が求められる。

リード文中の空所を埋める設問から始まり,その後にいくつかの設問が続くという形式が多い。一つひとつの空所補充の設問で問われているものの中には基本的なものもあるが,それが後の設問に意味をもつことが多いので,問われていることの本質をつかみ,それを論理の展開に役立てる思考力・応用力・推察力が求められる。

○与えられた情報と,自身の知識とを結びつけ,解答に至る構築力が求められる。

特に有機化合物の構造決定の問題では,問題文に与えられた情報だけ,もしくは,自身の知識だけでは解けない問題が多い。ときには自身の知識を応用させ,問題の条件に当てはめて整理し,あるいは問題の条件の方を整理し,自分の知識に照らし合わせ,再構築する力が求められる。

○目新しい問題には考察力と洞察力が求められる。

一見目新しく見える問題にも必ず類似の実験や反応が含まれているので,どの実験やどの反応が応用できるのか類推・推測する力が必要である。

■最近5年間の出題状況 出題分野(数字は大問番号)
科目 分野 小分野 2010 2009 2008 2007 2006
化学I 物質と人間生活 化学とその役割






物質の探究






物質の構成粒子 原子,分子,イオン


1




物質量






無機物質 単体




1


化合物

1


1



有機化合物 炭化水素


3

3



官能基を含む化合物

3,4

3,4

3

3

3,4
化学反応 反応熱



1



酸・塩基,中和

4





酸化と還元




1

2
化学II 物質の構造 化学結合


1,4

1

1


気体の法則

2

1,2




液体と固体

2


1,4



化学平衡 反応速度

2,3

2

2

2

2
化学平衡

1

2

2

2

1
食品と衣料の化学 食品




4

4
衣料






材料の化学 プラスティック



4


1
金属,セラミックス






生命の化学 生命体を構成する物質

4

4

4

4

4
生命を維持する化学反応




4


薬品の化学 医薬品






肥料






※例年,大問は4題で,前半の2題が理論化学(1題が平衡であることが非常に多い)で,後半の2題が有機化学(化学Iの有機が1題,化学IIの有機が1題)である。理論化学の問題の中に無機物質に関する知識問題が含まれる場合もあり(2010年度問題I),また,有機化学の問題は,知識問題というよりも有機化学を題材にした理論化学の問題としての色彩が強い。2010年度もこのような傾向で出題された。
※問題Iはリンのオキソ酸とH3PO4の電離平衡,問題IIはヘンリーの法則を絡めた反応速度,問題IIIは芳香族エステルの構造決定とベンゼン環の水素原子の置換速度,問題IVはヌクレオチドとリン脂質の構造や反応の問題であった。

■最近5年間の出題状況 問題形式
2010 2009 2008 2007 2006
リード文の字数

4290

4270

4180

3610

2820
図表の数

12

8

8

4

6
設問 論述短文

1





論述 ~50字



2

2


論述 ~100字


3

5



語句記述

12

5(9)

3

6

8
記号選択

2

16

2

4

3
計算・その他

33

28(24)

28

31

32

※ほぼ毎年,長いリード文があり,論理の展開に従って文中の空欄を埋め,その上で後の設問に答えるという形式である。2010年度は,論述の設問がほとんどなかった。

■2010年度入試の特徴

○化学平衡が頻出。理論化学重視でその傾向は有機化学分野にも及んでいる。

問題IIIの後半が反応速度の問題であり,有機化学分野においても理論化学の色彩が強く出ている。構造決定の問題も,単なる知識だけでは解けない内容になっている。

○2009年度と比べ大幅に難化した。

問題Iの最後の水素イオン濃度の増加量(Δ[H+])を求める計算がやや複雑である。また,問題IIは実験2以降の状況を理解することが難しい。問題IIIは標準的なレベルの問題であるが,問題の性質上,得点差はかなり生じる。問題IVは標準的な問題で,それほど差はつかない。

■2010年度 大問別出題分析
大問 テーマ 難易度 内容と求められた力
問題I リンのオキソ酸,リン酸の電離平衡

やや難

(a)リン酸の性質やポリリン酸の構造の問題。リン酸に関する知識だけでなく,環状のポリリン酸が生成するときの構造の変化を考察する力が必要である。
(b)リン酸一水素塩の水素イオン濃度およびリン酸一水素塩とリン酸二水素塩の混合水溶液である緩衝液の水素イオン濃度を求めるとともに,緩衝液に塩酸を加えたときの緩衝作用を数値の算出によって確認する問題。種々のイオン濃度を適切に近似して電離定数の式に代入するだけでなく,物質バランスをも考慮する必要があり,計算力だけでなく思考力も必要である。
問題II ヘンリーの法則,反応速度


プロピレンを溶媒に溶解させ,溶媒中でポリプロピレンを合成する実験に関する問題。実験1の結果からプロピレンの溶解度を求め,実験2の結果から容器内の物質の総物質量の減少がプロピレンの重合の進行を意味していることを理解し,実験3からポリプロプレンの質量を計算することがポイントである。実験の意味を理解する力だけでなく,設問自体が実験の目的を理解するための重要なヒントとなっているので十分な思考力・考察力が必要である。溶液の量,容器の体積,速度定数の単位などにも注意しながら正確に計算する力も求められる。
問題III 芳香族エステルの構造決定,ベンゼン環上の水素原子の置換速度

標準

(a)有機化合物の反応に関する標準的な知識をもとに,アルコールのヒドロキシ基の反応性の違いを考慮して,芳香族エステルの構造を決定することに関連した問題。ナフタレンの構造や反応,C4ジオールの構造や反応,ヨードホルム反応などの知識をもとに,ヒドロキシ基の反応性の違いを考慮するなど,問題文の流れに沿って解答を作成する力が必要である。
(b)トルエンの一塩素化の速度をベンゼンの一塩素化の速度と比較して,o-,m-,p-の置換速度の比を求め,その結果をもとにしてトルエンの二塩素化生成物の存在比を算出する問題。データを分析・処理する力とそれをもとにした推察力が必要である。
問題IV DNAとリン脂質

標準

(a)ヌクレオチド鎖の構造とデオキシリボースの構造の問題。一般的な知識と問題文の誘導だけで解ける内容で,標準的な応用力があれば対応できる。
(b)グリセロリン脂質の構造とその加水分解生成物に関連した問題。題材はあまり一般的なものではないが,問3の滴定曲線に最適なものが見当たらなかったほかは,標準的な知識や計算力で対応できる。

※「難易度」は,全問題中での相対難易度。合格者の正答率が6割程度だと京大特講編集部が推測したものを「標準」とした。

■合格に向けての対策

○正確で確実な知識を増やそう。

知識量が豊富なほど有利であることは間違いない。しかし,単なる知識問題は京都大ではほとんど出題されない。その本質をどの程度まで理解しているかを応用した形,あるいは発展した形で問うてくる。したがって,重要な公式や法則は,その根拠となる理論や実験事実を十分に理解しておく必要がある。これは,論述問題にも生かされる。

○応用力を養成し,類推・推測する力を身につけよう。

たとえば,C2H4について学習したら,必ずその反応をC3H6に応用するなどしてみよう。すると,マルコフニコフ則など新たな問題点が見えてくる。一つの例だけで理解すると,理解したつもりでも不完全である場合が多い。京都大はそういったところを突いてくる。一つ応用が効くということは全てに応用が効くという意味であり,その効果は決して小さくはない。そのことによって,類推する力や推測する力は確実に向上する。

○日頃から正確な計算力を身につけよう。

京都大では平衡の問題が頻出であり,必然的に計算が複雑になる場合が多い。2010年度問題IIのように圧力がPaでなくatmで与えられたとしても煩雑さは避けられない。日頃から計算ミスをすると,それが原因であっても,その分野自体に苦手意識をもってしまう。計算は常に正確に行うようにしておこう。

○天然有機化合物の出題頻度が高い。

例年,問題IVの有機化学の問題は化学IIからの出題で定着しており,糖やタンパク質の出題頻度が高い。糖では,アミロペクチンの構造やセルロースの誘導体が多く出題され,タンパク質では,ペプチドの構造決定などが多く出題される。これらの問題演習を十分に行った上で,さらに,核酸やATP,脂質など,他大学を含めて直近で出題された物質に関しても教科書の内容を徹底整理するなど対策は怠らないようにしておきたい。

○解答の際は,問題文の意図を考えよう。

問題文にはリード文がある。そこでは,その問題の意図が表現されている。それは,場合によっては問題のずっと後半になって初めて生かされることもある。したがって,常に問題文の意図に留意して読んでいくことが大切である。2010年度問題IIのように,一つひとつの設問が問題文を理解していくためのヒントになっていることもある。また逆に,問題文にしたがって一つひとつの操作や条件から数値や物質が求まっても,それが設問になっていない場合もある。しかし,そんな場合でもその結果は必ずその後に必要になってくる。したがって,京都大の問題を解くときには,設問を見てから該当する部分を問題文から探すのではなく,問題文をていねいに読みながら数値や物質が確定するたびにその関連の設問を探す姿勢が効果的である。

○集中力を身につけよう。

上述のように,京都大の問題は,一見平易に見えるリード文の中に重要なヒントが隠されている場合が多いので,細心の注意を払って読み進んで行かなければならない。そのためには十分な集中力と思考力が必要である。これは,一朝一夕には身につかないので,日頃から習慣づけておきたい。

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