試験時間:90分 大問数:4題
京都大は「幅広い,総合的な日本史理解」を受験生に求めている。例年,特定の時代・分野に偏らず,原始・古代から近現代まで,政治・社会経済・文化・外交とバランスよく出題される。問われる知識の大半は標準的なものだが,出題形式も史料読解・空所補充・短文記述・200字論述など多岐にわたり,「もれのない学習」が前提とされている。入学までにこのような知識や理解力を身につけておいてくださいという,京都大からのメッセージだと考えよう。
京都大日本史は例年,語句または短文を解答する問題が各1点×70問,論述問題が各15点×2問という配点で構成されている。語句を答える問題では,時折細かい知識が問われることもあるが,大半は多くの教科書に掲載されている標準的な出題であり,教科書や用語集・図説資料集などの活用で十分対応できる。特別難解な問題集を使用する必要はなく,むしろ標準的な語句の意味をじっくり理解し,漢字で正確に書けるようにするといったオーソドックスな学習を心がけることが高得点への一番の近道となる。
京都大の論述問題は,比較的短い問題文でシンプルに問われ,「… について」,「…をふまえて説明せよ」といった形式が多い。制度の「内容」,複数の事項の「比較」,事件・政策などの「経過や展開」,「原因と結果」など,端的な条件を与えられたテーマについて200字で説明するオーソドックスな形式である。教科書レベルではあるが,それだけに教科書を体系的に理解していることが大前提であり,問題の趣旨に沿ってきちんと構成を立て,自分の言葉で説明する表現力が求められる。
| テーマ | 2010 | 2009 | 2008 | 2007 | 2006 |
|---|---|---|---|---|---|
| 原始・古代 |
◎ |
◎ |
◎ |
◎ |
◎ |
| 中世 |
◎ |
◎ |
◎ |
◎ |
◎ |
| 近世 |
◎ |
◎ |
◎ |
◎ |
◎ |
| 近代 |
◎ |
◎ |
◎ |
◎ |
◎ |
| 現代 |
◎ |
○ |
○ |
○ |
○ |
| 通史(1大問内で3つ以上の時代について問われているもの) |
◎ |
◎ |
◎ |
◎ |
◎ |
| テーマ | 2010 | 2009 | 2008 | 2007 | 2006 |
|---|---|---|---|---|---|
| 政治史 |
◎ |
◎ |
◎ |
◎ |
◎ |
| 外交史 |
◎ |
◎ |
◎ |
○ |
◎ |
| 社会経済史 |
◎ |
◎ |
◎ |
◎ |
◎ |
| 文化史 |
◎ |
◎ |
◎ |
◎ |
◎ |
例年通り,3つの史料に基づく出題(第1問・20点),短文に基づく20の空所補充(第2問・20点),3つのリード文に基づく出題(第3問・30点),論述問題(第4問・30点)の4大問構成であり,配点も例年と変わらなかった。形式面では,2009年度まで出題されていた,語句説明・理由説明などの短文記述問題が,2010年度は出題されなかった。しかし受験生としては短文記述問題に対応しておく必要があることはいうまでもない。難易度,量はともに例年並で,京都大受験生のレベルとしては標準といえる。
2010年度は原始の出題がなかったが,古代から現代まで偏りなく出題されているのは例年通り。分野についても偏りなく問われている。
| 大問 | 出題時代(分野) | 難易度 | 内容と求められた力 |
|---|---|---|---|
| 第1問 | A中世(政治,外交)B近世(政治,外交)C近代(外交) |
標準 |
基礎知識をふまえ,史料から類推する力が必要とされる。A蒙古襲来(『東寺百合文書』),B長崎貿易(『京都御役所向大概覚書』),C石橋湛山「青島は断じて領有すべからず」(『東洋経済新報』)からの出題。3史料のうちA,Bは高校生には初見史料,Cは京大の受験生なら知っているべき史料,である。例年に比べて,思考のプロセスを何段階か経て答える必要がある問題が多く出されているが,解答は基礎的な用語であるため,設問の意図に沿って史料文から類推すれば既存の知識(教科書に載っている標準的なもの)で対応できる。例えば史料Aの問(2)は少弐氏のことを指しているが,知らなくても問題文をよく読めば解答を類推できる。史料B,Cの設問は解きやすい。基礎知識を確認する京都大の問題の典型である。第一次世界大戦期の山東問題については,二十一カ条要求やワシントン体制の成立に関連させて理解する必要があるが,その際に石橋湛山の山東放棄論は各大学で取り上げられる重要な論説であるので押さえておきたい。 |
| 第2問 | 古代,中世,近世,近代,現代(政治10問,外交6問,文化4問) |
標準 |
政治や経済,文化を軸に,相互に関連する用語を蓄積しておく必要がある。政治,経済,文化の各領域を軸にした短文の空所補充問題。例年に比べて文化史の割合が減少し,政治,経済が増えた。いくつか細かい設問があり,全問正解するのは案外難しい。短文の内容は(1)鎌倉時代初期の旧仏教,(2)下剋上の風潮,(3)江戸時代の貨幣,(4)田沼時代,(5)藩専売制,(6)長州藩と攘夷の実行,(7)お雇い外国人の役割,(8)近現代の税制,(9)財閥解体。大半は教科書・用語集レベルの知識をベースに,空所の前後から用語を特定することができる。イ摧邪輪は漢字の表記が難しいという面で,差がつく問題。空所ツ~トは政治経済などでしっかり学習する内容だが,日本史の出題としては面食らった受験生が多かったかもしれない。 |
| 第3問 | A古代(政治,文化)B近世(政治,文化)C現代(政治,外交) |
標準 |
重要なテーマについて,正確な知識を求める問題。3つのリード文(A古代の宮都,B江戸時代の儒学,C岸信介の事績)からの出題。Aの古代宮都の変遷は必須事項。Bは江戸時代政治史の推移に,儒学の動向を関連させ,文治主義への転換を取り上げている。カ林羅山の法名はできれば差がついた問題。Cは安保改定を進めた岸信介の事績を軸に,戦後政治の重要事項を問うている。タ警察官職務執行法もできれば差がつく問題だ。(11)軍需省はやや細かい。戦後史も含め,政治の動向と関連項目には,詳細で正確な知識が求められている。 |
| 第4問 | (1)古代(政治,外交,文化) (2)中世(政治,経済,外交,文化) |
標準 |
重要テーマについて総合的な理解を必要とする論述問題。(1)「推古朝の政策」(2)「足利義満の時代」について,それぞれ200字以内で論述する。(1)の論述問題は,6世紀末~7世紀初の推古朝の政策の具体例について述べる問題。受験生にとって既知の内容であるが,全体の枠組み(中国における統一国家の成立に対応して,周辺諸国も変容を迫られること)を示した上で,具体的な内容を結びつけて書けると理想的。(2)は南北朝の動乱を経て,京都の武家政権(室町幕府)が,中世社会をどのように再編成していったかを念頭に置き,足利義満が武家,公家の統合を実現し,明との新しい対外関係をつくっていったことを,文化の傾向も示しつつ論述する。具体的に盛り込むべき要素が多岐にわたるだけに,200字にコンパクトにまとめるのは案外難しい。 |
※難易度は,合格者の正答率が5割程度だと京大特講編集部が推測したものを「標準」とした。
語句・短文記述70問のうち,例年50~60問は解答となる語句の基本的な知識があれば答えられる問題である。そしてそのうちの8割前後は,ほとんどの教科書に掲載されている用語である。時折出題される難しい語句よりも,まずは基本的な「重要語句」をしっかり学習した上で,応用・発展的な学習をするとよい。実際にどのようなレベルの事項が問われているか,5年分の過去問をひと通り解いてみると,出題の傾向やレベルがわかるようになる。そして必要とされる知識が教科書でどのように載っているか,用語集でどういう扱いになっているか,自分で確認すれば,「教科書レベルの基本的な知識」を確実に押さえることの重要さが理解できる。
用語だけをバラバラに覚える無味乾燥な暗記ではなく,図説や資料集なども活用し,視覚的な理解や地理的な理解を用語と関連付けておこない,理解を深めることも大切である。例えば2010年度第3問Aでは問題文に書かれている平城京や平安京のようすを,頭の中で視覚化できたであろうか?さらに,平城京や平安京のようすだけにとどまらず, 中世から近世の京都の町のようすや,京都の町が果たした役割を資料集から読み取って理解すると,その時代の特徴を理解することにつながっていく。このような発展的な学習を心がけたい。また2010年度は出題されなかったが,短文記述問題では,教科書に記載されている内容から多く出題される。教科書に書かれている事項について,意味や理由,時代背景をじっくり考え,自分で「そういうことか」と気づきながら学習を進めてほしい。
第1問への対策として,史料文(現代語訳ではなく原文)に慣れておきたい。京都大は初見の史料が多いが,教科書に掲載されている史料や普段副教材として使用している史料集を中心とした学習が基本である。例えば2010年度第1問Aの史料は,受験生には初見の史料だが,重要史料に慣れておくことで対応できる。初見の史料だから難しいということはなく,類推する力があればむしろ他の受験生に差をつける機会であるぐらいに思ってほしい。史料集を活用して,各時代の史料の独特の言い回しになじんでおくと応用がきくはずである。このように京都大の史料問題は,史料そのものの知識ではなく,史料から問題に即した情報を導き出す力を求めている。
第4問の論述問題への対策として,京都大の過去問はもちろん,字数も形式も似ている大阪大や名古屋大の過去問も解いてみるとよい。論述問題は教科書などの基本的な知識をベースにして,求められた論旨を制限字数の中で書くわけであるから,まずは教科書に沿って基本的事項を理解し,その上で実際に書いてみることが重要である。何問も書いていくうちに慣れるようになる。解答は必ず学校の先生の指導を受けて,的確にポイントを押さえる力をつけていきたい。実戦対策には,『京大特講予想問演習/京大文系』が役に立つであろう。
日本史だけに特化せず,他の教科・科目も見ておくと役に立つ。なかでも世界史の知識はなるべくあった方がよい。前近代では東アジア,近現代ではヨーロッパと東アジアの概略がわかると,日本の対外関係の理解が早い。また,倫理で学ぶ仏教・儒学思想は,宗教史の学習をさらに深めてくれる。現代社会や政治・経済の学習は,日本史と重なる部分が多い。古典の知識は文化史だけでなく,史料文の読解にも必要になる。このように,他教科・他科目をおろそかにしないことが重要になる。
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