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2010年度
入試速報
東京大学
入試問題の分析と対策

前期理系物理

■概要

試験時間:(2科目で)150分 大問数:3題

■東京大学の物理(前期理系)で求められる力

○物理現象を深く考察する力と,その考察を客観的に表現する力

パターン問題の解法をそのまま使うだけでなく,それらをアレンジして解法を組み立てたり,独自に自分の力で論理的な解答を構築する力が必要となる。問題を解くことだけを目標とするより,現象の分析や考察を通して洞察力を身につけていく必要がある。また東大理科では,解答用紙に途中の考え方などを記述することが求められるので,論理をわかりやすく,かつ簡潔に表現する記述力も求められる。「論理的な飛躍・抜けがない」ことと「簡潔にまとまっている」ことが求められるため,普段から「いま考えている自然現象の本質は何か」を常に意識し,客観的に表現していく学習姿勢が求められる。

○はじめて見る問題設定を自分の知っている典型問題に置き換えていく力

東大では,一見はじめて見るような問題設定が多いが,必要となる知識は典型問題のそれと全く変わらない。よって基本法則や基本的な典型問題の解法の十分な理解が最も大切である。また,問題文を正確に読解し,自分の知っている典型問題,あるいはその融合問題に置き換えていく力が求められる。

○問題の難易を見抜き,易しい問題から確実に解答する力

近年,易化が進んでおり,大問単位で典型問題そのものが出題されるケースも見られるようになった。典型問題は確実に見抜いて,素早く正確に解答するようにしたい。

■最近5年間の出題状況 出題分野(数字は大問番号)
科目 分野 小分野 2010 2009 2008 2007 2006
物理I 電気 電気と生活






モーターと発電機






交流と電波






いろいろな波




3


音の伝わり方・音の干渉と共鳴

3





光の伝わり方・光の回折と干渉





1
物体の運動 日常に起こる物体の運動






運動の表し方

1

1,2

1,3



運動の法則

1

1,2,3

1

1


エネルギー エネルギーの測り方



1



力学的エネルギー

1

1,2

1

1


熱と温度


3

3



電気とエネルギー






エネルギーの変換と保存






物理II 力と運動 平面上の運動






運動量と力積

1

1




円運動と単振動

1

1

1

1

1
万有引力による運動





1
電気と磁気 電荷と電界



2


2,3
電流による磁界

2





電磁誘導

2

2


2

2
電磁波






物質と原子 物質の三態


3




分子の運動と圧力



3


3
原子と電子






固体の性質と電子






原子と原子核 粒子性と波動性






量子論と原子の構造






原子核






素粒子と宇宙






※例年3題で,力学と電磁気は毎年出題されている。旧課程でも原子分野の出題は少なかった。
※複数の問題を融合させた問題が多い。

■最近5年間の出題状況 問題形式
2010 2009 2008 2007 2006
図表の数

3

6

7

9

5
設問 記号選択,選択

1



2


論述

1

2


2

1
選択+論述



1

1

1
計算問題(文字式)

12

17

16

12

12
計算問題(数値)

4


1


7
図示


2

2

1

1

※変化のようすを記述したりグラフを描いたり,グラフを選びその理由を述べるなどの記述(論述)問題が例年1問ずつ程度出題されている。

■2010年度入試の特徴

○第1問をはじめ典型問題そのものが出題。易化傾向に。

昨年の第2問に続き,2010年度も第1問,第3問Iなどで,問題集などでよく見る典型的な問題が出題され,全体的に易化傾向となっている。ただし,依然よく考えさせる設問もあり,また今後も易化傾向が続くとは言い切れないので,しっかりと深く考察する学習が必要なのは言うまでもない。

○近似計算,物理現象の論述などで東大らしさも。

第3問の数値計算では,与えられた条件から近似計算が使えることを判断することが求められた。また,第1問III(2)では運動の様子を論述させるなど,東大ならではの対策を必要とする問題も出題されている。問題文も「最高点到達後の車両のふるまいを述べよ」と具体的ではないので,自ら何が要点なのかを判断し,的確に説明する力を身につけることが必要である。

■2010年度 大問別出題分析
大問 テーマ 難易度 内容と求められた力
第1問 力学(鉛直面内の非等速円運動を続ける条件,衝突,摩擦のある斜面上の運動)

やや易

非等速円運動の問題で,車両がレールから離れずに円軌道を回り切る条件を考える。Iは1つの車両が運動する場合,IIは途中で2つの車両が衝突し一体となる場合,IIIは2つの車両が弾性衝突する場合である。徐々に設定が複雑になっていくが,車両がレールから離れないための基本的な条件は変わらない。IIIの後半は,斜面に摩擦があり,車両が到達する最高点の高さをエネルギーと仕事の関係から求める問題である。さらに,最高点に到達した後の車両のふるまいについて論述が求められている。「最高点到達後の車両のふるまいを述べよ」と問題文の指示が具体的でないので,自ら何が要点なのかを判断し,的確に説明しなければならない。全体的に目新しい内容はなく,計算も複雑ではないので,完答を目指したい。
第2問 電磁気(抵抗と,一様な磁場内の2本のレール上を運動する導体棒を含む回路の問題)

やや易

2本の導体レール上に置かれた導体棒に流れる電流にはたらく力と,運動する導体棒に生じる誘導起電力を中心とした問題である。抵抗の回路に関する内容も含まれている。Iは導体棒が固定されているときに,導体棒に流れる電流を求め,導体棒に流れる電流が受ける力の大きさと向きを求める内容で,基本的である。(2)で回路に流れる電流を求めるためには,キルヒホッフの法則を用いる必要がある。上手に文字を少なくして計算しないと,計算が煩雑になりすぎてしまう。IIは導体棒を自由に動ける状態にして,(1)は抵抗3に流れる電流が0になるときの導体棒の速さを求めるものである。抵抗3に流れる電流が0になるとき,抵抗1と導体棒が直列に接続された回路であることに気がつけば,簡単に解くことができる。(2)では導体棒が等速で運動するときには導体棒にはたらく力の合力が0になるので,導体棒に電流が流れていないことに気がつけば,このとき導体棒に生じる誘導起電力が求まり,導体棒の速さを求めることができる。
第3問 波動(クントの実験 気柱内にできる定常波,ドップラー効果とうなり)

やや易

クントの実験と呼ばれる気柱内にできる定常波を可視化する実験に関する問題と,ドップラー効果に関する問題である。クントの実験を知らなくても解けるように問題がつくられている(なおクントの実験は1993年前期に出題されている)。Iは開管と閉管について振動数を求める基本的な問題で教科書の内容そのものである。IIでは共鳴が起こる2つの振動数のとき,気柱内には管の両端が節になる定常波ができる。このような管の両端が閉じた場合の定常波は教科書では学ばないが,波長を求める基本的な考え方は一般的な開管,閉管の場合と変わらない。IVでは直線状のドップラー効果と斜め方向のドップラー効果によって観測される振動数が変化した2つの音によって発生するうなりの振動数を求める。(2)では,うなりの振動数から自転車の速さを数値計算で求めるものであるが,近似を使わないとかなりの計算量を必要とする問題になってしまう。近似には「音速に比べて自転車の速さが極めて遅い」という聞けば当たり前のことを使うのだが,問題文中にはそのことが述べられていないので,「自主的」に気づかなくてはならない。物理現象を普段から原理に立ち戻るように考察していないと,このような気づきは得られないであろう。

※「難易度」は,合格者の正答率が6割程度だと東大特講編集部が推測したものを“標準”とした。

■合格に向けての対策

○普段からじっくり考える学習を心がける。

典型的なパターン問題は,そのままの形で出題されることは少ない。多くの典型問題に当たって基本法則に対して十分な理解をすることは大事であるが,過去問や問題集の良問を時間をかけてゆっくり分析することも非常に効果的である。単に問題に解答するだけでなく,問題の前提条件を考えたり,別解を考察したり,別の角度から見直したりすることにより,深い物理的考察力が養われる。消化不良のまま多くの問題に当たるより,少しの問題でもじっくり取り組むことが大切だ。

○問題となっている現象を頭の中にイメージしながら解く。

はじめて見るような問題に対して,数式や公式だけでそれを解決しようとしてもなかなかうまくいかない。まずは「この問題設定・条件ならばこの後どんな現象が起こるだろうか」ということを定性的に正しくシミュレートできるようになっておく必要がある。これによって,解答のおおまかな道筋を自分で立てることができるようになり,また計算ミス等によって論理上ありえない解を導いてしまったときも,そのミスにすばやく気づくことができる。この力を養うには,普段から身のまわりの物理現象を注意深く観察し,またそれを意識しながら典型問題を多く解くことなどが効果的である。

○複雑な問題を典型問題(の組み合わせ)に翻訳する練習をする。

東大理科では一見とても複雑な問題に見えても,基本となっている原理や法則は典型問題のそれと変わらない。基本的な典型問題を多く解くことによって個々の典型的な解法をしっかりと理解・記憶し,使いこなせるようになったら,今度はそれらを複雑な問題を解くために組み立てていく(逆にいえば,複雑な問題を個々の簡単な問題に分解・翻訳していく)練習が必要となる。どのような複雑な現象に出会ったときも,まず「この現象の基本となっている法則はなんだろう」と考えてみる癖をつけておきたい。これが物理という学問の本質でもあり,大学入学後もこのような力は必ず役に立つ。

○定理や法則は導出できるようにしておく。

単に公式を覚えて使えるだけでは,深い洞察力を養うことはできない。証明可能な定理や法則は,前提条件に立ちもどって導出できるようにしておく。そうすれば,目新しい条件で出題された問題にも,その問題中で自ら定理や公式を導くかのように対応することができるようになる。もちろん限られた試験時間内で解答するために,公式を暗記しておくことはある程度必要だが,公式を使う度に,証明方法などを頭に思い浮かべるようにしておこう。

○学習した内容を整理する。

教科書では,力学,電磁気,波動などと分野ごとに分かれて物理現象を学習するが,実際の問題では,分野横断的な知識を問われることも多い。普段から,自分が何を学習していて,他の分野の何と関連があるのか,頭の整理をしておくことが必要である。時には,各分野の関連性を俯瞰的に眺める機会をつくるのもよい。

○正確で素早い計算力を身につける。

他の難関大ほど複雑な計算を要する問題が出題されることは少ないが,正確かつ素早い計算力が必要となる。普段から次元や単位に気をつけるなどのポイントを押さえながら正確な計算をするよう心掛け,少しずつ計算力を積み上げていくことが必要である。

○身のまわりの物理現象に興味をもとう。

東大の物理では,身のまわりの自然現象を題材にした出題も少なくない。問題を解くという学習だけでなく,生活の中で物理現象を分析し,自分の知識の範囲で考察しておこう。また,新聞やテレビで報道される自然科学や科学技術に関するニュースに興味をもつことは,科学を学ぶ動機の原動力にもなるはずだ。

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